農家に、
「あなたが田を耕したり種をまいたりする姿を見たことはないぞ。いったいあなたの鋤(田をたがやす道具)はどこにあるんだ? あなたの牛はどこにいるんだ? またあなたはいったいどんな種をまいているんだ?」
そのように問い詰められているにも関わらず、お釈迦さまは堂々と平和な顔をしています。もしお釈迦さまがうそをついているのならばこんな安らかなお顔をしているはずはありません。そのお釈迦さまの姿から何かを察した農家も、いままで恐ろしい顔をしていましたが、だんだんと穏やかな顔になっていきました。そして農家は再度尋ねました。
「いったいあなたが耕すということはどういうことですか?」
先ほどまで、お釈迦さまとケンカをしているような様子だったこの農家は、今は先生に尋ねる生徒のようでした。
そこでお釈迦さまはしずかに語りはじめました。
「私が耕しているのは大地ではなく、人間の心である。智慧が鋤であり、信という種をまく。そして、悪い行為を制するのが草を取るということである。そして、私がひく牛は、精進という牛である。そしてすべての苦しみから自由となり、安らかな心を収穫するのである。」
農家の方に分かるように、お釈迦さまは仏教の本質をしっかり説いています。この説法後、この農家はお釈迦さまを師と仰ぐ在家の弟子となりました。
出典「耕田」(『相応部経典』七、十一。
『雑阿含経』四、十一)
コメントを残す