欲求が先か、快楽が先か

動機づけにおけるドーパミンの役割

 長い間、中脳腹側被蓋野から前脳基底部に至るドーパミンニューロンの投射は、快楽報酬 hedonic reward, 別の言葉でいえば快感を伝えると信じられていた。摂食行動の場合,ドーパミンは味の良い食物に反応して放出され,摂食によって起こる感覚を快感とすると信じられていた。動物は前脳におけるドーパミンの放出という快楽報酬を求めて,口に合う食物を探し求めるように動機づけられると考えられていたのである。
 しかし,この単純な考えの正当性はここ数年考え直されている。ミシガン大学の Kent Berridge は,視床下部外側野を通るドーパミンの軸索を破壊すると,動物は摂食をやめはするが食物に対する快楽の反応 hedonic response は減らないことを発見した。そのような損傷を持ったラットの舌においしい食物を置くと,いまだに食物が食快感を引き起こすかのようにふるまい(ラットはあたかも舌つづみを打つようなふるまいをする),食物を食べつくしてしまう。ドーパミンを枯渇するように処理した動物は,食物が好きであるかのようにふるまうが,食べ物を欲しはしない。食べ物が手に入ればそれを楽しむかにみえるが,あきらかに食べ物を探そうという欲求を欠いている。

『神経科学』─脳の探求─ p406

カテゴリー: 勉強, 読書

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