先月号では、幡随意上人と龍の夫婦のお話をしました。今月号はそのつづき。
幡随意【ばんずいい】上人が龍を救った時代は、日本が戦争ばかりしていた危険ととなりあわせの時代でした。
あるとき、幡随意上人は新潟県の林泉寺というお寺にお参りに行きました。そこの住職と幡随意上人は、どちらの教えが正しいのか言葉で戦いあう法論を始めました。そしてその法論で負けた者は僧侶の衣を脱がないといけません。衣を脱ぐということはお坊さんではなくなってしまうということです。幡随意上人はキリスト教の方を仏教の教えに導く仕事を任されているようなすごいお坊さんです。いとも簡単にこのお寺の住職を法論で打ち負かし衣を脱がせ帰っていきました。ところがそのお寺は、戦国時代に活躍した、上杉謙信という武将の先祖代々のお墓があるお寺でした。その上杉家の人はそのお寺の住職が衣を脱がされたことを知り大いに怒りました。
「法論の勝ち負けのことは仕方がない。しかし、私たち上杉家の先祖を供養しているお寺の僧侶の衣をはぎ取ることは無礼ではないか。我らはこの越後の国(今の新潟県)の大名であるぞ」と怒り、幡随意上人を殺そうと考えました。しかし、上杉家は大名です。
「それくらいの事で、僧侶を殺したのでは世間の笑いものになるかもしれない。そうだ、我らがおさめる越後の国には昔より一念義という教えを信じているものがいる。その者達は幡随意のような「南無阿弥陀仏と常に怠らずに称えよ」と教えを説いているものをとても嫌っている。この者達にあの幡随意を殺させよう。」と考えました。
そこですぐ、その一念義を信ずる者達を集め、幡随意を殺せと命令しました。すると彼らはとても喜び、
「あの幡随意は『私たちの教えは誤った教えだ。そんな教えを信じても救われんぞ』などといい私たちの教えを否定します。だから私たちは彼を殺そうと準備をしておりましたが、大名であるあなたの裁きを恐れて今まで実行をためらっておりました。しかし、今その許可を頂きありがたく思います。」
彼らは喜び勇んで帰っていき、さっそく人や武器などの準備を始めます。そんな準備をしているとも知らず幡随意上人は、毎日「南無阿弥陀仏・南無阿弥陀仏」とお念仏を精進していました。
そんなある夜、幡随意上人がお念仏をしていると、突然、龍の夫婦が現れました。
「上人、ここにいてはあなたはこれからひどい目にあいます。どうか急いでこの地から離れてください。」
そう龍がいうと、上人は、
「何事もそうですが、過去にしてきたことが、そのまま自分にかえってきているのです。まさに自業自得です。のがれることはできません、このままここにいましょう。」
そう上人は言いましたが龍は真剣に上人を説得します。
「上人はこの後、生きてさえいれば多くの人をお念仏の道に導き救っていきます。しかしここで死んでしまえば、多くの人を導くことはできません。私たちは上人を常に守ります。どうかはやくこの地から離れてください。」
「分かった。ではまず弟子たちからこの地から離れさせよう。」
そういうと師は弟子達の所にいき、訳を説明し、
「そういうわけだから、あなた達ははやくこの地から離れなさい。どこの地に行ったとしても、南無阿弥陀仏と称えることだけは怠ってはいけないぞ。縁があればまた再会しよう。」
そういうと、弟子達は悲しみ、なかなか上人のそばから離れようとしません。
(つづく)
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