「一ヶ月後に結婚式を挙げたいんです。」
結婚式の計画をたてることをお仕事としている有賀明美さんのもとに、新婦になる女性からそんな電話がありました。普通であれば、一年前や半年前くらいに予約して、ゆっくり時間をかけて計画するのですが、今回は一ヶ月後です。
わけを聞いてみると、
新婦のお父さんが、末期のガンで、お医者さまに「一ヶ月の命」と言われているので、早く結婚式をして、花嫁すがたを見せてあげたいということでした。有賀さんは、
「そういうことであれば、絶対に花嫁すがたを見ていただきましょう」とお約束いたしました。
ところがその次の日、予約をキャンセルされたのです。お医者さまから、改めて話があり、「一ヶ月の命と言いましたが、二週間しかもたないでしょう」と言われたそうなのです。
しかし、有賀さんはあきらめませんでした。そこで、お父さんの病室で式をあげることを提案したのです。有賀さんは、会社の社長に頼みこみ、その計画を実行し、新婦も喜んでその提案を受け入れてくれたそうです。
ところが、悲しいことに、その病室での結婚式の前日、お父さんは亡くなってしまいました。
有賀さんは、
「どうして神さまはあと一日まってくれないんだろう」
と悔しい思いと、後悔の思いがつきあげてきました。
「私が余計な計画を考えたばっかりに、皆さまを傷つけてしまった。なんとおわびを言ったらいいのか・・・」
連絡をするのをためらっているそんな有賀さんのもとに、お葬式を終えた新婦から明るい声でお電話がありました。
「父親に花嫁すがたを見せることはできませんでしたが、おかげで式のために集まった親族に見守られて、父は旅立つことができました。そんなきっかけを下さった有賀さんは恩人です。」
そんな感謝の言葉をいただいたのです。私はほっぺたをぬらしながら、受話器をにぎりしめました。
(つづく)
イラスト:藤富千尋
コメントを残す