大願寺|こころに「ひかり」を。福岡県芦屋町の浄土宗寺院
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自動CSF測定が示す認知進行──未来の予測と、今を生きる智慧

自動CSF測定が示す認知進行──未来の予測と、今を生きる智慧

この記事で得られること

  • 最新研究が示す「認知症への進行リスク推定」の要点を、できるだけ平易に理解できます
  • 「予測」という光が不安の影を生むとき、仏教の智慧で心を整える視点が得られます
  • 今日からできる、短い実践(称名念仏・呼吸・慈悲の日記)を持ち帰れます

※本記事は医療の代替ではありません。強い不安や症状がある場合は、主治医や専門機関にご相談ください。
ここで扱うのは「未来の断定」ではなく、「不安とどう付き合うか」という心の扱い方です。


[30秒の智慧]

脳脊髄液(CSF)バイオマーカーを自動測定する技術が進み、「認知症へ進行する確率」を統計モデルで推定し、リスクを層別化する研究が前進しています。
けれど仏教は問います──「未来の予測」という光は、あなたのを照らすのか。それとも、不安という影を濃くするのか。

「未来を知ることは、今を忘れることではない」


[マインドフル・サマリー]

  1. 科学の進歩: CSFバイオマーカーの自動測定と統計モデルにより、MCI(軽度認知障害)からの進行リスクを複数の層に分けて見立てる研究が進む。
  2. 仏教の視座: 予測という「分別」を、役立つ“道具”として尊重しつつも、そこに囚われず縁起・無常・空の眼鏡で今を慈しむ。
  3. 実践の提案: 称名念仏・呼吸法・慈悲の日記で、不安を「今ここ」の確かさへ戻す。

[本編:科学する慈悲]

序(共感)──数字に縛られる現代人

あなたは今朝、何回スマートフォンを確認したでしょうか。
株価、歩数、睡眠スコア、血圧、体重。私たちは無数の数値に囲まれ、それらを「管理」することで人生をコントロールできると信じがちです。

けれど、数字が増えるほど、心は安らぐどころか、かえって渇いていくことはありませんか。
私も、数字に触れるたび心が揺れる感覚を何度も経験しました。数字は便利です。しかし同時に、私たちから「今この瞬間の実感」を奪うこともあります。

今回ご紹介する研究は、その最前線にあります。
脳脊髄液(CSF)中のバイオマーカーを自動測定し、認知症への進行リスクを確率として見立てる技術です。


説(科学)──予測というテクノロジーの到達点

風鈴と梵鐘、重なり合う予兆

2025年に発表された研究(PMID: 41433662)は、CSFバイオマーカーの**自動測定(Elecsysプラットフォーム)**を用い、MCIの方がアルツハイマー型認知症へ進行するリスクを推定する統計モデル(ABIDE)を更新・検証したものです。

ここで大切なのは次の一点です。

  • これは「個人の未来を断定する検査」ではありません
  • 複数情報を統合し、「どの層に近いか」を確率として見立てる技術です

研究のポイント(やさしく)

  • CSF中の複数バイオマーカー(例:Aβ1-42、pTau 等)を自動測定し、モデルに入力する
  • 結果を 4つのリスク層に層別化する
  • たとえば(研究の一部の条件下で)層によって「進行時期の推定中央値」に差が出ることが示される
  • ただし、モデル性能はC-indexが約0.70程度と報告され、“当たる/当たらない”ではなく、見立ての精度には限界がある(=不確実性を含む)

4層(リスク層)を「イメージ」で掴む

研究では、条件を満たす集団の中で、4層に分けたとき進行時期の推定中央値が概ね次のように幅を持ちます(※個人の断定ではありません)。

  • 層1(より低リスク側): 約6年台
  • 層2: 約3〜4年台
  • 層3: 約3年台
  • 層4(より高リスク側): 約2年台

ここで、私たちが誤解しやすい落とし穴があります。
「2年と出たから、2年後に必ずそうなる」という読み方です。

仏教の言葉に置き換えるなら、予測は「運命」ではなく「縁の配置を読む」ことに近い。
縁の配置は、変わります。だから、未来は“確定”ではありません。

この関係はまるで、お寺の境内で風に揺れる風鈴の音と、時を告げる梵鐘(ぼんしょう)の響きが重なり、庭全体の空気を一変させるようなもの。
複数の要素が合わさることで、リスクという「音色」はより鮮明になります。
しかし、音色が鮮明になったからといって、人生そのものが一枚の予定表に固定されるわけではないのです。


理(智慧)──縁起・無常・空の三つの眼鏡

縁起(ネットワークの相互接続性)

バイオマーカーの変化は、単一の原因から生じるものではありません。
食事、運動、睡眠、人とのつながり、環境、ストレス──無数の要素が網の目のように結ばれ、「認知機能」という現象が立ち上がります。
仏教はこれを 「縁起」 と呼びます。

縁起の眼鏡をかけると、「私は高リスクだ」という単線の物語が、「私は今、縁の網の目の中にいる」という立体の見え方に変わります。

無常(変化こそが本質)

「諸行無常」。すべては移ろい、固定された未来などありません。
リスクが高いと判定されても、それは現時点の「縁」の配置から導かれた一つの見立てに過ぎません。

だからこそ、今日できることがある。
睡眠を整える。歩く。誰かと笑う。祈る。
その一つひとつが、縁の配置を少しずつ変え、心の景色も変えていきます。

空(ラベルは“道具”であって“私”ではない)

「あなたは高リスク群です」というラベルは、医療の世界では意思決定を助ける**便宜(道具)**になり得ます。
一方で、ラベルが心を縛るなら、そのときラベルは道具ではなく“鎖”になります。

仏教の 「空(くう)」 は、ラベルに実体がないことを教えるだけではありません。
「ラベルを道具として使い、必要以上に自分そのものに貼り付けない」
その距離感を取り戻す智慧でもあります。


行(実践)──未来の不安を、今の慈しみへ

静寂の中での自己対話

科学を仏教の智慧で編み直した今、私たちにできる「今日からの行」を、短く三つ提案します。
どれも、立派にやる必要はありません。「1分でもできたら十分」です。

  1. 称名念仏(声を出し、耳で聞く)
    「南無阿弥陀仏」と、実際に声に出して称えます。
    その響きを、ご自身の耳で受け止めてみてください。
    お念仏は、未来や過去へ彷徨う心を今へ引き戻す アンカー(錨) になります。

  2. 呼吸の縁起観察(3分間)
    呼吸に意識を向けます。空気、神経、筋肉の動き。
    その一つひとつに「無数の縁」が関わっていることを、ただ感じます。
    目的は“うまくやること”ではなく、“戻ってくること”です。

  3. 慈悲の日記(1日1行)
    寝る前に、こう書きます。
    「今日、自分や誰かにかけた優しい言葉(あるいは、かけられた優しさ)を一つ」
    未来の不安に引っ張られた心を、今の確かさへ戻す小さな儀式です。


【今回の智慧】

  • 縁起(えんぎ): すべての物事は単独で存在せず、無数の原因と条件が重なり合って成立しているという法則。
  • 無常(むじょう): すべては変化し続け、固定された状態はないという真理。
  • 空(くう): ラベルや境界は便宜であり、実体として自分を縛るものではない。道具との距離を取り戻す智慧。

[さらに深める]

  • 参照論文: PMID: 41433662(Alzheimer's & Dementia誌、2025年)
  • 読者への問いかけ:
    あなたは今日、未来への不安に何分を費やし、今この瞬間の豊かさに何分を捧げたでしょうか。
    その“1分”を取り戻すために、今夜、ひと息だけ整えてみませんか。

合掌。